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  ヒシの枯死・消失と水質(透視度)との関係

 2008年10月12日、13日に津市の13ヵ所のため池の水質(透視度)を調査し、ヒシの枯死、消失と水質との関係を調べた。

 夏季にヒシが異常繁殖(ため池全体がヒシで密に覆われた状態)した津市のため池としては、大沢池、岩田池、殿村池、釜ヶ谷池、およびヒシが低密度で覆っていたため池として箕内池があった。

 ヒシは1年生の水草であり、秋にヒシの実をつけて枯れてしまう。ヒシを食害する生物として、ジュンサイハムシとヒシチビゾウムシが発生しているのが観察された。これらの昆虫の発生が多いため池では、ヒシの枯死、消失が早く、かつ急速であった。

 2008年10月中旬までに、ヒシがほとんど枯死・消失したため池(大沢池、岩田池)と、ヒシが緑色の状態で高密度に残っているため池(殿村池、釜ヶ谷池)があった。透視度計で水質を調査すると、前者の大沢池と岩田池の透視度は低く、後者の殿村池と釜ヶ谷池では透視度が高かった(下図を参照)。

 ヒシの急速な枯死、消失によって透視度の低下が起こるが、他にどのような現象が招来するのであろうか。最近、一読者からメールをいただいたが、9月頃にため池のヒシが急速に枯れた時期に、周辺住民が異臭を問題にしたという。この時に、ジュンサイハムシが大量発生していたそうである。

 今回の調査では、ヒシが急速に枯死、消失したため池では、そうでないため池よりも明らかに水質の悪化が認められたが、異臭の発生の有無は未確認である。

 ヒシの繁茂は、夏季においては、ため池の過剰な栄養分(窒素、リン)を吸収し、アオコの発生などの水質の悪化を抑制し、水質をよくする機能がある。また、ヒシを食害する昆虫の発生によって、ヒシの枯死、分解が、水温のまだ高い時期に急激に起こることによって、分解が促進されため池の底への植物体残渣の堆積が抑制されると考えられる。

 しかし、一方で、ヒシの異常繁殖は、親水空間としてのため池の景観の悪化、急激な枯死・分解による異臭の発生などの問題を生じさせる。

 ため池のヒシの異常繁殖の調節を食害昆虫に期待するということには、いろいろ問題がありそうだ。

 2008年11月18日にため池の透視度を調査した。ヒシが池水面を覆っていた殿村池と釜ケ谷池では10月の調査以降にヒシが大量に枯れて消失したので、透視度が下がっているはずだと思っていたが、予想に反して両方の池の透視度は100cmを超えていた。岩田池では透視度は61cmに向上していた。一方、大沢池では透視度18cmと不透明さが増していた。

 これらのことから、大量のヒシが枯れて消失しても、必ずしも濁って透視度が低下するということはないことが分った。10月下旬から11月中旬には水温が夏と較べて低下したために、これらのため池では、枯れたヒシの葉の分解が急速に進みにくいために、透視度の低下が見られなかったと考えられる。今回、前回よりも透視度が下がったのは、大沢池、大釜池、下池であった。このうち、大釜池では岸近くにアオコが浮遊し、これが透視度計の視界をさえぎった。下池は川の流入がない小さな池で、三方が雑木林、残りの一方が雑草の生い茂った堰堤であり、池底に落ち葉などの残渣の沈殿が多いと推測される。

 大沢池は、これらのため池の中で唯一、調整池的なため池で、常時、小川が流れ込んでいるのが特徴であり、池と岸辺に生育する植物由来の有機物のほかに、小川から有機物や栄養塩類が流入して富栄養化しやすい条件にある。こうしたことも秋の透視度の低下に関係していると考えられる。

 (下のグラフの縦軸は透視度で単位はcm、透視度計の目盛りは最大100cm。横軸はため池の面積を示し、単位はha)



 上の図で茶色の四角は、2008年10月12日、13日の調査。ピンク色は11月18日の調査。夏にヒシが池面を覆って繁茂していたため池は、大沢池、殿村池、岩田池、釜ヶ谷池の4ヵ所であり、10月12日〜13日には岩田池と大沢池では、既にヒシは枯死、消滅していたが、殿村池、釜ヶ谷池ではヒシの葉が高密度に残存。大釜池にはアオコが発生。下池は三方が林に囲まれ落葉が多い小さな池。11月18日には殿村池、釜ヶ谷池のヒシも消失していた。青い矢印は、10月から11月への透視度の変化を示す。

 2008年10月12日、13日に撮影。写真をクリックすると拡大します。

釜ヶ谷池
ヒシが、まだ高密度に残っている。
殿村池
ヒシが高密度に残っているが、密度がやや低下。
岩田池
ヒシが枯死し、残骸が水面にかなり見える。この池は、夏期にヒシが最も高密度に繁茂した。
大沢池
ヒシは、西半分からはなくなり、東半分にはごく低密度に残存。

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